学生と社会が響き合う“宴”
―産官学が共に育む新しい人材育成モデル―
イベントの導入と背景
大阪・関西地域を舞台に、産官学と学生が連携した新しい形のグローバルインターンシッププログラム「宴(うたげ)」が実施され、その最終発表会が開催されました。最終発表会の第2部では「世界中のチェンジメーカーたちよ、大阪・関西に集まれ!」というテーマのトークセッションが行われ、企業、行政、教育機関の有識者と参加学生が集い、それぞれの視点からプロジェクトの成果や可能性について語りました 。このブログ記事では、そのトークセッションの内容をもとにイベントの概要と成果をご紹介します。
まず本プロジェクト誕生の背景として、大阪・関西が直面する課題が挙げられました。現在、留学生を含む多様な学生が在学中に社会と触れ合う機会が乏しく、行政や企業も学生と出会い連携する場が不足しているのが現状です 。そうした産学官と学生の間の溝を埋めるために立ち上がったのが、今回のグローバルインターンシップ「宴」です 。従来の「就業体験」を目的とするインターンとは異なり、産業界・行政機関・大学と学生が一体となって地域のリアルな社会課題の解決に挑む実践型のプログラムであることが特徴です 。まさに多様な人材が大阪・関西に集い、協働してイノベーションを起こすことを目指した取り組みとして位置づけられています。
プロジェクトの目的と設計
グローバルインターンシップ「宴」の目的は、世界中から集まった学生と地域の産官学が協働し、新たな価値創出や社会課題解決に挑むことで、未来のチェンジメーカーを育成することにあります。プログラムの設計にも独自性があり、例えば多国籍の学生チームと企業メンターの社会人がペアを組み、実際のビジネスの現場でリアルな課題に取り組む点が挙げられます 。従来型インターンシップが企業紹介や業務体験の場であったのに対し、本プログラムでは実際の課題解決プロジェクトに学生が主体的に参画する点で大きく異なります 。
具体的には、約半年にわたるプログラムの中で学生たちは個人応募後に多様なバックグラウンドを持つメンバーでチームを編成し、まず大阪・関西万博のパビリオンで外食産業の企業と連携した就業体験を行いました 。その現場体験で感じた課題や得られた気づきをもとに、本格的な課題解決型プロジェクトに取り組みます 。活動を支えるために、地方リーダーによる研修会、社会人メンターとの定期ミーティング、さらにはダイバーシティ&インクルージョン(DEI)研修なども実施され、プログラム全体を通じて非常に密度の濃い学びの機会が提供されました 。半年間の集中的な活動の成果として、この日は選抜された学生チームによる最終成果発表が行われ、続くトークセッションで各界からのゲストがその意義を語ったのです。
学生たちのリアルな声
まずトークセッションの冒頭では、実際にプログラムに参加した学生たちの生の声が紹介されました。参加学生たちは国籍も専門も異なりますが、それぞれ本プログラムを通じて大きな学びと成長を得ています。
韓国出身のイさん(法政大学)は、「電話営業のような従来型インターンも多い中で、このインターンでは自分が知らないことをたくさん学べ、様々な活動に挑戦できた」と振り返ります 。初めての関西での就業体験では、経営者クラスの社会人とも近い距離で接することができ、その交流がとても面白く刺激的だったと語りました 。「若いうちに自分の経験のためにお金を使ってでも挑戦して良かったです」と笑顔で語る姿から、自己投資を惜しまない前向きな姿勢が伝わってきました 。
台湾出身のリさん(関西学院大学)は、本インターンシップが「これまで参加したものとはかなり異なっている」と強調します 。自分の活動の成果や努力が可視化される仕組みがあり、それによって「頑張れば頑張るほどプロジェクトにもっと関わりたいという気持ちが強くなった」と言います 。実際にリさんはチームリーダーも務め、メンバーをまとめ上げて目標達成に導いたことで大きな達成感を得られたとのことです 。「セミナーに参加するとポイントがもらえるなど、自分の足跡が形に残るので、自分がどれだけ頑張ったかが分かるんです」と語る様子から、努力が見える化される工夫が学生のモチベーション向上につながったことが伺えます 。
前田さん(大阪大学)は、「最初は就職活動のネタになればという軽い気持ちで応募しましたが、このインターンの最大の特徴は“実装”の部分だと感じました」と述べています 。チームで実際にプロジェクトを実装していく中で様々な困難に直面しましたが、「学生のアイデアに対して真摯に向き合ってくれる社会人の方がたくさんいて、学生がやりたいことにこんなにも人を巻き込めるのかと驚いた」ことが一番の学びだったと語りました 。自分たちの本気に社会人も本気で応えてくれた経験を通じて、大きな自信と今後への展望を得たようです。「この学びを今後の大学での研究や就職活動にも生かしていきたいです」と締めくくる前田さんの言葉から、得られた経験が将来のキャリアにつながる手応えが感じられました 。
国分さん(神戸大学)は、「このインターンに参加して感じた一番大きな成長は、自分の価値観が本当に広がったことです」と話します 。異なる専攻や背景を持つメンバーとチームを組むことに最初は不安もあったそうですが、実際に取り組んでみて「同じ外食産業というテーマでも、学生ごとにこれほど違うアプローチやアイデアが生まれることに驚いた」と言います 。これを通じて、「就職活動でも業界を一つに絞るのではなく、企業ごとの目的やアプローチの違いに目を向けようと思えた」と語り、視野が大きく広がったことを強調しました 。異なる分野の人々と議論し協働する体験が、多角的なものの見方を身につける契機になったようです。
技術活用による学びの可視化
本プロジェクトのユニークな点として、最新技術の活用による学びの可視化が挙げられます。トークセッションではブロックチェーン技術の応用例として「アメチャンNFT」というユニークな取り組みが紹介されました。関西で親しまれている飴玉(アメちゃん)をモチーフにしたデジタルバッジをNFT(非代替性トークン)化し、学生とメンターの活動履歴を記録・共有する仕組みです 。例えば、学生が企業の方にインタビューを行ったり就業体験をした際にこのアメチャンNFTをスマホでかざすと、その出来事がデジタル上に履歴として蓄積されます。同様にメンター側も「どんなアドバイスを行ったか」「どのチームをサポートしたか」といった関わりの記録が残るようになっており、インターンシップ中のあらゆる学びと交流がブロックチェーン上に刻まれるのです 。
この仕組みにより、学生は自分がどんな活動をし、何を学んだかを後から振り返りやすくなり、いわばデジタルな成果ポートフォリオを得ることができます。「履歴がしっかり残っていて、その人がどんな活動をしてどんな学びを得てきたのかが数字やデータで可視化されるのは画期的です」とファシリテーターの古川教授もその意義を評価していました 。就職活動の場面でも、「長々と言葉で説明しなくても、自分はこういう活動をし、これだけの成果を残しましたと証明できる」ため、学生にとって大きなアピール材料になります 。さらにメンター側にとっても、「グローバル人材の学生と協働し、多様なコミュニケーション力や理解力を発揮した証になる」ため、双方にメリットがあるといいます 。新しい技術を取り入れることで、インターンシップ中の学びや貢献を形に残し評価可能にした点は、本プロジェクトの革新的な要素の一つと言えるでしょう。
企業関係者の視点
トークセッションには外食産業を代表して2社の企業関係者が登壇し、学生たちと半年間関わった立場からプロジェクトを振り返りました。
エターナルホスピタリティグループ執行役員の神山大地様は、まず「従来との違い」として学生チームの自走力に注目します。「今回のインターンでは学生たちがそれぞれのチームで主体的に動いているところが大きな違いでした」と述べ、最初は外食産業について学ぶ入口から始まったものが最終的には壁一面に貼り出された素晴らしい成果につながっており、学生自身が自己成長を実感できるインターンになったのではないかと評価しました 。短期間で実社会の業界知識を身につけ、まるで自分たちがその業界で働いているかのような意識で臨めたことが多様な学びにつながったと感じているようです 。「外食産業というフィールドをよく知ってもらえたのではないか」とも語り、業界としても学生に興味を持ってもらう良い機会になったことを示唆しました 。
グルメ杵屋執行役員の三輪光雄様も、受入企業の立場から「従来型インターンは企業から学生への一方通行になりがちだが、今回は学生が能動的だった」と指摘します 。一般的なインターンでは「自社はこんな事業をしていて、部署があって…」と企業説明をする場面が多く、学生はそれを受け身で聞く形になりがちです 。しかし「宴」では最初に一つのテーマが与えられ、学生が自分たちで新しいビジネスを創造する流れになったため、まさに受動から能動への転換が図られていたと語りました 。実際、三輪様ご自身も4つほどの学生チームに関わったそうですが、「あるチームはメンバー全員が企画書を作成して持ってきて、全てにアドバイスをくださいという感じでまるで宿題を出されたかのようでした」と笑い交じりにエピソードを紹介しました 。また別のチームについては「わざわざ私の運営する日本語学校を訪問し、在校中の留学生80名ほどにアンケート調査をしてくれました。正直、こんな積極的に動く学生がいるのかと驚きましたが、提出された企画はどれも完成度が高く筋の通った素晴らしいもので感心しました」と、学生たちの行動力と成果を絶賛しました 。企業側にとっても学生の圧倒的な主体性に触れることで多くの刺激を受け、「とても素晴らしい取り組みだった」というのが両社共通の感想でした。
行政機関の視点
行政の立場からは、経済産業省 近畿経済産業局の担当者がトークセッションに参加し、本プロジェクトに対する所感を述べました。
まず、従来型インターンシップが受動的な側面を持つことに触れつつ、本プロジェクトについては「超主体的な取り組み」であると評価し、その革新性が強調されました。特に印象的な点として、日本人大学生と外国人留学生が混成チームを組み、ビジネスモデルを提案する形式について言及があり、「このような形態のアイデアコンテスト(ビジネスモデルコンテスト)は他に類を見ない」との認識が示されました。多様性(ダイバーシティ)を重視し、新しいイノベーションを生み出すという文脈において、まさに理想的なモデルケースであると位置づけられています。
また、外食産業というテーマについては、「今後、海外展開を進めたい企業や、インバウンド(訪日外国人)需要を取り込みたい企業にとって、外国人目線のアイデアは極めて価値が高い」との指摘がありました。そうした観点から、今回、外国人留学生が加わった混成チームから生まれた提案の数々は、業界にとっても貴重な示唆を与えるものだったと整理されています。さらに行政の視点として、単なる労働力不足への対応にとどまらず、「成長途上にある優秀な海外人材が活躍できる機会をいかに創出するか」が重要であるとされ、本プロジェクトはその実践的な機会を提供している点で高く評価されました。少子高齢化が進む日本社会において、優秀な留学生・外国人材が十分に力を発揮できていない現状への打開策としても、本プログラムは大きなポテンシャルを持つと受け止められています。
さらに、行政側の見解として、「学生のアイデアを単なる思いつきとして捉えるのか、それとも自治体や企業における新たな取り組みの種として捉えるのかによって、その意味は大きく変わる」という問題提起がなされました。本プロジェクトを通じて生まれたアイデアが、将来的に企業での実証や実装につながり、さらには参加した学生が当該業界に就職することで具現化されていくことへの期待も示されました。行政の立場から見ても、本プログラムは将来的なイノベーション創出や地域産業の発展につながる可能性を十分に内包した取り組みであることがうかがえます。
教育機関の視点
教育界からは大学関係者として高島先生と、モデレーターでもある関西大学国際部の古川友美教授が議論に参加しました。高島先生はまず日本の一般的なインターンシップについて触れ、「企業が主導してビジネスマナーを教え込む側面が強かった」と従来の傾向を述べつつ、それ自体も大事だと認めました 。しかし一方で、「新しいものを創造できるチェンジメーカーを育てるには、常識や前提が異なる外の視点(異文化)を取り入れることが不可欠だ」と指摘します 。今回のプロジェクトはまさに海外の学生というポジティブな外部の視点を取り込んで企業と共同で進め、多くの成果を出した点に本当の価値があったと高島先生は評価しました 。「学生たちの力と外の視点が融合することでこれだけたくさんの成果が出た。本当に素晴らしいプロジェクトだったと思います」との言葉から、教育的観点から見ても本プログラムが大きな可能性を示したことがわかります 。
一方、古川教授は全体のまとめとして「ジャミング」というキーワードを挙げました 。異なる文化・分野の人々が交じり合っている状態を音楽のジャムセッションに例え、「予想できない化学反応が起こり、新しいハーモニー(調和)が生まれる状況」を指す言葉として「ジャミング」を説明しました 。まさに産官学と外国人・日本人学生が混ざり合った今回のプロジェクトこそ、このジャミングが体現されたものであり、「プロジェクトの価値はこのジャミングという言葉に集約される」と強調しています 。古川教授はまた、「イノベーションは異質なもの同士を掛け合わせることで生まれると言われますが、まさに多様な人たちが集まってジャミングすることで新しいものが生まれると感じました」と述べ、多様性の中での協働(ジャミング)がイノベーションを創出し、チェンジメーカーを生むのだと総括しました 。教育者の視点から見ても、異なる背景を持つ人々が交わる学びの場が持つ大きな力を改めて実感できたと言えるでしょう。
トークセッションのまとめ:「ジャミング」の概念と今後への期待
約50分間のトークセッションは、産官学それぞれの視点と学生の声が交錯し、大変学びの多い内容となりました 。最後に提示されたキーワード「ジャミング」は、今後の人材育成や地域創生のヒントとして強く心に残るものです。多様な人々が積極的に関わり合い、予期せぬ化学反応から新たな価値が生まれる――この「多様性のジャミング」こそがイノベーションの源泉であり、本プログラムが示した最大の成果だと言えるでしょう 。
登壇者からは今後への温かい期待のメッセージも寄せられました。「ここから生まれた様々なアイデアのいくつかは、ぜひ実際に企業で実証したり事業化したりしてほしい」といった声や、「本プログラムで育った学生たちが将来産業界で活躍し、次なるイノベーションの担い手になってくれることを期待している」というエールが送られました 。実際、今回提示されたアイデアの中には外食産業の未来を切り拓くヒントが数多く含まれており、企業や行政もその実現可能性に注目しています。また、「このような多様性のジャミングをこれからも色々な場で続けていきたい」という発言もあったように 、産官学の関係者それぞれが本プロジェクトを出発点としてさらなる連携に意欲を示していました。
グローバルインターンシップ「宴」は、インターンシップの枠を超えて産官学×学生の協働による未来社会の実験場となりました。大阪・関西という地で生まれたこの実践モデルが今後広く展開し、多くのチェンジメーカーの卵たちが羽ばたいていくことを、関係者一同心待ちにしています。今回の最終発表会で交わされた議論と熱意を追い風に、これからも多様な人々が集い「ジャミング」しながら新たな価値を創造していく――そんな明るい未来への期待を感じさせるイベントとなりました。
(記者 立命館大学 経営管理研究科 ゾウ)